サイネックス・マガジン

シティプロモーションアワード2023金賞受賞!! 羽村市のシティプロモーションの取り組み(前編)

目次
  1. シティプロモーションってどんな仕事なのか聞いてみました!
  2. 小さいまちだからこそ、情報が届けやすいし、すぐに行ける
  3. PV数よりも一人ひとりにしっかり“羽村の良さ”を届けることが大事

1.シティプロモーションってどんな仕事なのか聞いてみました!

こんにちは! サイネックスマガジン編集部の島Dです。主に地域行政情報誌『わが街事典』をはじめとした紙媒体の編集をしています。さて、今回は自治体のシティプロモーションについてのインタビュー記事をお届けします。

お相手は羽村市の企画部秘書広報課広報・シティプロモーション係の青木悟係長。筆者が担当した『羽村市暮らしのガイドブック』の担当者で、そのご縁をたよりにインタビューをお願いしたところ、快く引き受けてくださいました!

実は羽村市は2023年に「シティプロモーションアワード2023」金賞を受賞しています。その授賞式でも青木さんが表彰されていて、まさに羽村市のシティプロモーションを先頭にたって進めている方です。

受賞の様子。表彰式はこちらの動画で見られます。

そんな羽村市のシティプロモーション戦略は、子育て世代を主なターゲットにして「羽村市が好きな住人を増やし、好きな気持ちをアピールしよう」というもの。

受賞理由でも、「羽村は子育てがしやすいですという一方的な訴求ではなく、そこに住んでいる皆さん自身が“羽村ってこんなに良いんだ”と実感する。その実感したことを写真に撮ったり言葉にしたりする。しかもみんなが集まる場所があり、そこでのコミュニケーションがある。これらが羽村市のプロモーションとしてとても生きている」でした。

市民が「自分のまちが好き」とアピールすることほど説得力のあるPRはそうはありません。市民の“好き”を増やし、それをアピールするためにどんな取り組みをしているか伺いました。




2.小さいまちだからこそ、情報が届けやすいし、すぐに行ける

――まず羽村市の特徴を教えてください。

東京都は23区と多摩地域と大きく2つに分かれていて、多摩地域は23区よりは自然が多いという特徴があります。 羽村市は多摩地域の西多摩地域に位置していて、より自然が豊かなエリアの中にあります。

そのうえ面積は9.9平方キロメートル。これは東京都264市中3番目、全国792市中で7番目の小ささです。小さいというのは、言い方を変えると、行政サービスやイベントを地域のすみずみに行き渡らせやすく、利用しやすいといえます。

たとえば、公園などの市の施設でマルシェをやっているとか、新しいお店ができたとか、期間限定のサービスをはじめたとか、そういった情報をキャッチした時にすぐ行ける強みがあると思います。



――考えてみると土曜の午前中限定で農産物直売会をやっていたとか、終わってから知ることが多いかも。

そうですね。広報を読まないと気付かないとか、メール配信サービスに登録してないと情報が届かないとか、各施設のホームページやチラシでしか案内していないものとか、けっこうあると思います。

羽村市はすべての情報を届けられているというわけではありませんが、キャッチした情報にすぐアクセスできる距離感というのは日常の豊かさにも繋がると思います。



――転入者も増えているみたいですね。

それは新型コロナウイルス以降、羽村市に限らず多摩地域全体に見られる傾向ですね。それまでは転出超過が続いていたのですが、2021年には転入者が180人ほど増えました。2022年は再び転出超過(4人減)になりましたが、2023年にはまた転入者が増え、転入超過(17人増)になりました。

転入元としては近隣自治体や23区のほか、神奈川県、埼玉県、千葉県が多くなっています。

市は定住人口増を掲げているので、シティプロモーションのミッションは、転入してくる人を増やす、逆に転出する人を抑えるというものです。プロモーションの対象は20代、30代の子育て世代です。

考え方としては、羽村市のことをもっと知ってもらい、市のサービスや市内のスポットを活用していただいて羽村市を好きになっていただくこと。それが転出抑制にとっても大事だと思っています。



――子育て世代をターゲットに絞ったのはいつごろですか。

羽村市は2016年度から、市内の子育て家族に協力してもらい、“愛情\ギュッと/ず~っとはむら 東京で子育てしやすいまち”というブランドメッセージとロゴマークを作り、情報発信を進めてきました。

ブランドメッセージ・ロゴマーク

その甲斐もあって、働く女性向けウェブメディア「日経xwoman(クロスウーマン)」(発行:日経BP)と日本経済新聞社が調査した「共働き子育てしやすい街ランキング」では、2022年に全国4位、23年に全国5位となり、全国の中でも子育てとか共働きがしやすいというイメージが広まっていったと思います。



――情報発信する際の行動指針のようなものはありますか。

2016年にシティプロモーションの基本方針を作り、それを2022年に改訂しました。

第六次羽村市長期総合計画(2022年) 自治体運営の方針」で各施策の中に、シティプロモーションの視点を取り入れて推進する方針を定めたことから、目的と方法を設定して、その達成のためにはどのような課題があり、その課題をどのように解決するのかという対応策を分析したのです。



目的

地域社会や経済を支え、まちににぎわいと活力を創出させることが期待できる「未就学児を育てる20代・30代の共働き世帯」をターゲットとし、ターゲットの転出抑制と転入促進につながる取組みを戦略的に行い、定住人口の減少に対応していくことで、住民福祉の増進を図り、まちの持続的な発展を実現させること



方法

目的を実現させるために、まちに関わる市民や団体、事業者が持つまちへの誇りと愛着を醸成し、「まちづくりに参画したくなる」「まちを語りたくなる」「まちを勧めたくなる」意欲を高め、まちの魅力を創出していくことで好循環を生み出す



課題と対応

1.まちのイメージの捉え方に違いがある
 ⇒ブランド化の推進
2.認知度が低い
 ⇒戦略的・継続的な情報発
3.20代・30代の人口減少と若者の地域への関心の低さ
 ⇒シビックプライドの醸成


3つの課題と対応を意識した取り組みを行い、下図のような好循環を生み出すことで、シティプロモーションのターゲットである「未就学児を育てる20代・30 代の共働き世帯」の転出抑制と転入促進につなげ、定住人口を増やしていくという風に整理しました。

好循環を生み出すロジックモデル

3.PV数よりも一人ひとりにしっかり“羽村の良さ”を届けることが大事

――主にどういうメディアを活用していますか。

SNSも使い、メールも使い、広報紙も使い、公式サイトからも情報提供するというクロスメディア(複数のメディアを利用してPRする手法)を意識した発信をしています。

それと羽村市の場合は、独自のテレビスタジオがあります。そこで「テレビはむら」という番組を作り、ケーブルテレビとYouTube「東京都羽村市公式動画チャンネル」で発信しています。

「テレビはむら」はケーブルテレビ時代から数えると30年以上続けていて、たとえば、子育て世代に特化した番組を作ったり、季節の観光情報を案内したりと、ターゲットを見据えた情報発信をずっとやってきていました。



――広報するということと、シティプロモーションをすることには情報発信は同じでも違いはありますか。

 羽村市の場合は、広報とは市の情報を広報紙や公式サイトで告知するという業務です。市として知ってほしい情報を全市民対象に広く発信するという意識なので、難しいというか、お堅い内容などもあります。

 一方で、シティプロモーションはマーケティング思考を取り入れ、ターゲットを絞り、相手のニーズを基に情報発信を行うという意識がありますね。また、対象者も市民だけでなく、市外の方々に向けてより強く発信していくという特徴があります。



――視聴数やPV(ページビュー)を上げる取り組みはしていますか。

それは課題のひとつだと思っています。ただ、アクセスがないからテコ入れをするとか、アクセスを稼ぐことを目的にしてはいけないと思っています。

そもそも行政が発信する情報は、年齢問わず、広く市民の方に届けるものという感覚があります。

そういう行政として広く市民に知ってほしい情報がある一方で、一人ひとりに直接的に羽村市のいいところを伝えたいと思っているのも事実です。

たとえば、市外のイベントで羽村市のブースに来ていただいた方に羽村市の説明をする。そして、その方がほかの方に羽村市の良さを伝えて、次第に口コミで広がっていったほうがPVを稼ぐテコ入れをするよりはいいし、それができたら理想だなと思います。



――職員自身も羽村市のメディアのひとつのような感じですね。

シティプロモーション担当の職員は、自分がプロモーション担当だという認識を持っています。ただ、行政のマンパワーだけでは限界がありますし、発想も偏ってしまいます。

そこで羽村市は、 羽村市魅力発信市民記者という市民ライター制度を作っています。登録している方は13人(2025年1月現在)で、ウェブマガジン「はむらぐらし」の執筆をしてくださったり、イベントを企画したり、参加してくださったり、羽村市の魅力をどう発信していけばいいか考える会議を毎月定例的に行って情報交換をしたりしています。

市民記者の皆さんは市民目線でお店や地元の企業の紹介からイベントなどを記事にしてくださるので、そういった連携ができているのはすごく大きいと思っています。「市民主体のまちづくり」の可能性を感じるというか、羽村愛あふれる皆さんと話し合っていると自分の羽村愛もどんどん強くなっていくんです。

企画部秘書広報課広報・シティプロモーション係 青木悟係長

後編へ続く

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