企業誘致を成功させるには? 誘致の手法や成功事例を紹介
地域に企業を誘致することは、自治体にとってさまざまなメリットがあります。誘致を成功させるためには、地域の特徴を活かして企業にアプローチする必要があります。今回は、企業誘致の手法や成功事例を紹介します。
企業誘致とは?
企業誘致とは、地域経済の活性化を目的とした取り組みの1つです。企業の本社や事業所、工場などを地方へ移転するように誘いこみ、都心部に集中しがちな経済を緩和して、地方に分散させることです。
自治体にとって、企業誘致は新規雇用の機会が増えたり、税収が増加したりといった利点があります。 企業にとっても、広大な敷地や物流の優位性を確保できるほか、優遇税制の恩恵を受けられるなどのメリットがあります。
自治体が企業誘致するメリット
自治体が企業誘致に取り組むことは、どのような目的とメリットがあるでしょうか。主に、下記の3つが挙げられます。
・地域経済の活性化
・雇用の拡大
・税収の確保
地域に企業が進出することで、地域住民は新たな雇用の機会を得られ、同時に生活水準の向上が期待できるのです。
進出した企業だけでなく、地元企業への経済的波及効果から雇用効果も生まれ、地域の雇用問題の改善につながります。地域の雇用拡大により、U・Iターン就職の促進にも効果が期待できるでしょう。また、地元の若者が地域で就職することで、地域外への移住や通勤者が減少し、地域の人口流出を抑制する効果もあります。
地域の経済活動が活性化し、自治体の税収増加が見込めるのもメリットの1つです。この税収をインフラ整備や地域のサービス向上に活用し、さらに地域の発展に貢献できるでしょう。
企業誘致の注意点
企業誘致は、リスクをきちんと把握して計画を立てることが重要です。企業誘致に取り組む際に、注意すべきことが2つあります。
1つ目は、地域が労働者を供給できるかどうかです。企業誘致に成功したとしても、地元の労働市場で適切な人材の確保が難しいとなると、企業が地域から撤退してしまうかもしれません。
2つ目は、地元住民が不利益や損失を被るリスクです。工場を誘致することで、交通渋滞、騒音、水質汚濁、大気汚染や悪臭などの公害が発生する恐れがあります。企業が地域の環境に与える影響の評価や事前調査を行い、地域と企業の相性を見極めた上で取り組むことが重要です。
企業誘致の手法
企業誘致は地域にとってさまざまなメリットがあります。しかし、現実には、企業と自治体のマッチングがなかなかうまくいかないケースも珍しくありません。ここでは企業誘致を成功させるためのアプローチをいくつか紹介します。
補助金や税金優遇を軸としたアプローチ
企業誘致を成功させるために、自治体自らが補助金を用意することがあります。これは、企業が移転にかかる費用の負担を減らして、移転へのハードルを下げることが目的です。一方、自治体にも負担がかかるため、国の補助金制度を活用することも重要です。
たとえば、地方創生のための取り組みや環境整備についての支援として「デジタル田園都市国家構想交付金」や、事務所や研究所を地方に移転や拡張するときに課税の特例措置が受けられる「地方拠点強化税制」などがあります。ただし、この方法には注意点もあり、大規模工場など費用対効果が見込める場合に限定されます。また、財政や交通の便、労働者の供給力などが厳しい自治体は採用しにくい方法でもあります。
地域の強みを活かしたアプローチ
地域特有の自然や文化、歴史的遺産などは、自治体にとって大きなアピールポイントです。
すでにある観光地に加え、エンターテインメント施設やホテル事業の誘致に成功すれば、観光産業の発展と地域経済の活性化が期待できます。企業と協同で地域イベントやワーケーション・プログラムなどを企画するのも効果的です。
地域の一次産業や特産品、伝統工芸や商工業も、企業誘致における強みになります。伝統工芸の技術を活かした新商品の開発や、企業とのコラボレーションなども実現可能です。
地域の課題を軸とするアプローチ
多くの地方自治体は、人口減少や労働力不足の問題をかかえています。さまざまな企業がもつノウハウを活用することで、これらの課題を解決できる可能性があります。
たとえば、塾や学びの場の不足している問題に対し、首都圏の企業と協力し、教育プログラムやオンライン学習環境を導入する取り組みです。また、伝統工芸の担い手不足の問題には、デザイン関連企業とコラボレーションして商品開発を行うことで、地方の担い手育成の機会をつくれます。
人材を活用するアプローチ
地域住民の中には、魅力的な仕事があれば地方に残りたいと考える人もいます。そのためにも、地域の人材のスキルや特徴に合わせた企業を選び、誘致することが大事です。
企業誘致の成功例 5選
全国の企業誘致に成功している地域の事例を紹介します。
【補助金や税金優遇を軸としたアプローチ】三重県亀山市
三重県亀山市は、積極的に企業誘致を行い、2002年には、大手メーカー「シャープ」の誘致に成功し、有名になった地域です。亀山市で作られた液晶テレビは「世界の亀山」ブランドとして売り出され、国内外で亀山市の名が知られるようになりました。
亀山市に建てられた工場は、三重県と亀山市が交付した補助金によって建設されており、補助金によるアプローチが成功した事例です。シャープの誘致成功に伴い、三重県内にはディスプレイ製造関連企業が多数操業しています。
【補助金や税金優遇を軸としたアプローチ・地域の強みを活かしたアプローチ】岩手県北上市
岩手県北上市は東北自動車道の結節点、新幹線駅、空港、港も近くにあり、こうした環境をフルに活用しつつも、市役所を挙げて企業誘致の活動をすすめています。市長自らが企業訪問を行い、誠意をもって関係構築を進める「トップセールス」が成功の要因とされています。
過去には、東芝工場の誘致に政令市の北九州市に競り勝ち、誘致に成功した実績があります。交通の立地条件が恵まれている点はありますが、市長が率先してトップに立ち、営業活動を行っていることが自治体や周囲の取り組み姿勢にも影響し、地域が一丸となって企業誘致を成功させた事例といえるでしょう。
【補助金や税金優遇を軸としたアプローチ】兵庫県淡路市
兵庫県淡路市は、2008年から積極的な企業誘致に取り組んでいます。助成金や税制優遇など企業フォローが手厚く、企業が進出しやすい環境をつくっています。神戸市へのアクセスの良さや観光スポットの魅力を活かし、「淡路島で働きたい」というモデルケースを作ることを目的に取り組んでいます。
パソナグループを筆頭にした企業誘致により、雇用創出において大きな成果を上げ、2020年度、2021年度と人口は増加に転じました。パソナグループの淡路島活性化事業や本社機能移転などにより、島外に出ていた人たちが再就職して戻って来る流れにつながったようです。成功のポイントは「本社機能の一部」ではなく、本社ごと淡路市に来ることにこだわり続け、パソナグループが取り組む事業を粘り強くサポートしたことで生まれた、企業と自治体の信頼関係にあるのではないでしょうか。
【地域の強みを活かしたアプローチ】沖縄県うるま市
うるま市では、IT関連企業の誘致に積極的に取り組んでいます。成功例として、約3万人のIT企業従事者を確保した実績があります。沖縄県は最低賃金が安いため、企業側にとって人件費を抑制できる点がメリットです。最近では、ITベンチャー企業や中小企業の誘致を成功させる強みにもなっています。
沖縄は「特別自由貿易地域」「情報通信産業特別地区」など、県が国の政策と連携しているため、うるま市ではこれまでコールセンターの集積などで多くの雇用を創出しました。
また、沖縄ならではのリゾート環境を活かした、うるま市を国内外の情報通信関連産業の一大拠点とするための「沖縄IT津梁パーク」というプロジェクトを行っています。日本とアジアをつなげる架け橋となる意味も含まれ、IT人材の創出集積や優れた就業環境の提供を行うことをコンセプトとした取り組みです。企業にとっては、都会よりも安い人件費で優れた人材を雇用でき、労働者にとってはリゾート環境で働ける点がメリットとなり人材が集まる効果になっているといえます。
【地域の課題を軸とするアプローチ】熊本県葦北郡葦北町
熊本県葦北郡葦北町は、サテライトオフィスの導入により企業誘致に成功しました。2012年に廃校となった校舎をサテライトオフィス「芦北サテライトオフィス計石」として再利用し、IT企業などを誘致しました。オフィスだけでなく、住居物件の紹介も行うなど、新しい環境で働く・暮らす企業や、企業で働く人をしっかりとサポートしています。
芦北サテライトオフィス計石にはWeb制作やデザインを行うIT企業5社が入居しており、自然豊かな環境で心身ともにリフレッシュしながら都会の顧客とも距離を感じず仕事ができることは魅力の1つになるでしょう。企業融合による相乗効果や、高校とIT企業が連携して人材育成に取り組むなど、地域の発展にも大いに期待できます。
最近では、台湾など海外から来た人が仕事をしながら各地を巡る越境ワーケーションへの需要の高まりに着目し、外資系IT企業への観光施設体験、サテライトオフィス体験、地域企業との交流会を企画するなど、さらに発信領域を広げています。
まとめ
企業誘致には、補助金や税制優遇、観光資源や交通の利便性といった地域の強みを活かす方法など、さまざまな方法があります。しかしこれらのアプローチにはお金がかかったり、地域によっては採用しにくかったりするものもあります。近年は、デジタルマーケティングなどを活用したプロモーションを行ったり、地域の課題を逆に強みにしたり、特徴的な企業誘致をする自治体も増えてきました。今回ご紹介した事例を参考に、ぜひ皆さんの自治体でもどのようなアプローチが有効か、考えてみてはいかがでしょうか。