自治体の子育て支援の取り組み方とは?施策の種類や事例を紹介

自治体における子育て支援は、少子化や人口減少が進む中で、子育て世帯の流出を防ぐための重要な施策です。住民満足度の向上や移住促進にも影響するため、自治体の運営において欠かせない取り組みといえるでしょう。
子育て支援とは?
子育て支援とは、子育てをしやすい環境を整え、家庭が出産、育児に抱いている不安を解消するための政策のことです。子育て支援には、保護者のサポートも含まれています。
2015年には、子育て支援の質と量を拡充する目的から、「子ども・子育て支援新制度」が創設されました。これによって、子育て支援は市区町村が主体となって進め、都道府県や国はこうした市区町村の取り組みを制度面、財政面から支えるという体制になりました。
内閣府から自治体に向けた子ども・子育て支援新制度の情報も参考にしてください。
(参考)内閣府:子ども・子育て支援新制度
自治体における基本の子育て支援
「子ども・子育て支援新制度」がスタートし、子育て支援に取り組む主体となるのは市区町村となりました。これによって、自治体の裁量範囲が広がり、地域の実情に合った子育て支援が実施しやすくなったのです。
ここでは、自治体による基本的な子育て支援の内容を紹介します。
経済面の支援
経済面の支援の代表的なものに、市区町村から中学生までの子どもに給付される児童手当があります。自治体によっては、プラスしてさまざまな子育て支援金制度を実施しています。
また、「子育てパスポート」と呼ばれる制度があります。これによって、自治体が子育て世帯に対し子育て支援パスポートを発行し、協賛する企業などを募って、さまざまな優待制度が受けられるようになります。
健康面の支援
健康面の支援では、自治体が主導で子どもの健康診断や予防接種への補助を行ったり、育児相談会を開いたりしています。予防接種を無料で受けられるなどの取り組みも増えてきました。
地域の親子を対象とした育児相談会を開く自治体も多く見られます。
教育面の支援
教育面の支援として、発達障害や不登校の子どもを対象とした支援を実施している自治体があります。
また、英語教育の強化の一環として、保育園や認定こども園で0歳からの英語教育を実施したり、高校生の海外留学を支援する奨学金制度を設けたりしている自治体もあります。
自治体の子育て支援取り組み例

子育て支援は、自治体の規模によっても取り組む施策は変わってきます。大規模な自治体は財源が豊富なため、取り組める施策も多くなります。
一方、過疎地など小規模な自治体では人手や財源などの制約があるため、ここでは、人口が5万人以下の自治体に焦点を当て、自治体の規模にかかわらず取り組める可能性がある子育て支援の施策をご紹介します。
岡山県奈義町:経済的支援
岡山県奈義町は人口が6,100人という小さな自治体です。奈義町の支援は教育関連や医療関連など多岐にわたります。「医療費の高校生までの無料化」など思い切った施策も行っています。
奈義町の子育て支援の強みは、複数の支援策を子育ての段階に応じて切れ目なく受けられることです。具体的には、「医療費の高校生までの無料化」の他にも、以下のような独自性の高い支援を行っています。
妊娠期:不妊治療助成、不育治療助成
出産・乳児期:出産祝い金交付、在宅育児支援手当
幼児期:ワクチン接種
就学期:高等学校等就学支援
岐阜県恵那市:教育支援
岐阜県恵那市は、人口約4.7万人の自治体で、「住みたい田舎ベストランキング」(宝島社)の子育て世代部門で2年連続して全国1位に選ばれました。
「子育てするなら恵那」をスローガンとして子育て支援に力を入れており、そのポイントとなるのが、妊娠・出産・子育てまでのライフステージにおける切れ目のない支援です。具体的には、以下の支援があります。
妊娠期:マタニティサポート119、不妊治療費の助成
出産・乳児期:第3子以降出産祝い金、ファースト・マイ・スプーンのプレゼント
幼児期:医療費の無料化、多子世帯保育料の免除、給食費の無償化
就学期:入学祝い金、明知鉄道通学費の補助
特徴として、出産・子育てをする親への手厚いサポートがうかがえます。
茨城県境町:教育支援
茨城県境町は、人口約2.3万人の自治体です。子育て支援の一環としては、教育支援に力を入れています。
代表となるのが、先進的な英語教育のためのスーパーグローバルスクール(SGS)事業です。ここでは国際化に対応した英語教育を推進しており、5歳から中学生まで無料で受けられます。
小中学校にALT(外国語指導助手)が複数常駐し、休み時間や給食中も英会話を体感できます。ALTとは、英語を母国語とする国から来た教師が日本の学校で英語教育を支援する制度のことです。また各学校において、英検を受験料無料で受験可能です。
教育面以外でも、20歳の学生まで医療費無料、保育料第2子以降無料、保育園・小中学校の給食費無料など、子どもの将来へ積極的な投資を行っています。
大分県豊後高田市:経済支援・健康支援・教育支援
豊後高田市の人口は約2.3万人です。全国トップレベルの子育て支援を目指している豊後高田市は、子育て応援誕生祝い金で最大200万円支給に加え、子どもが生まれる前から高校を卒業するまで「8つの無料」制度を実施しています。
・高校生までの医療費無料
・0歳~中学生までの給食費無料
・市内保育園の保育料・市内公立幼稚園の授業料の完全無料
・妊婦健診14回分無料
・妊産婦の医療費無料
・産婦健診2回分無料
・高田高校授業料の完全無料 (令和5年10月1日~)
・幼児~小・中学生の市営塾と高田高校生徒を対象とした公設民営塾の授業料が無料
子どもの成長に合わせて手厚い支援を行っていることが特徴です。
自治体が子育て支援に取り組むときのポイント

自治体の子育て支援の施策は多岐にわたりますが、ここでは取り組むときのポイントを解説します。
ニーズ調査の実施
子育て支援を充実させるには、それぞれの自治体が地域の課題やニーズに対して、短期、中長期の両方の視点で対応を検討していくことが重要となります。
たとえば、岡山県奈義町は2014年に岡山県算出の合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)が、2.81と全国平均の1.44(2016年)を大きく上回り、子育て支援施策の成功例として注目を浴びました。しかし一方で、同年に2060年には奈義町の人口は現在の半分になると推計もあがりました。
このことに危機感を抱きつつ、チャンスとも捉え、次世代のために魅力ある施策に取り組むことを決め、2016年の「奈義町まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定に至りました。この背景には、1,000人の町民と中高生全員へのアンケート、町内のさまざまなグループや団体へのインタビュー実施、19人の町民がワークショップ形式で素案をつくるといった、町民の声を施策に反映した取り組みがあります。
取り組みの過程で、子育て中の女性から仕事をしないと社会との接点がもちにくいと訴える声が多いことが明らかになりました。孤立は住民の流出につながりやすく、その対策として「まちの人事部事業」が誕生し、雇用機会や町民同士の接点の増加につながったのです。
子育て支援の施策では、地域の課題やニーズを調査して、地域住民の意見を取り入れた施策を考えることが重要です。
子育てアプリの活用
近年、子育て支援アプリを導入する自治体が増えてきました。今はスマートフォンから情報を入手する人が多く、住民や保護者のスマートフォンに直接情報を届ければ、広報誌や回覧板などよりも迅速かつ確実に情報を伝達できます。
子育て支援アプリによって、電子母子手帳機能や子育て支援機能を備え、自治体からの情報発信や各種申請手続きのデジタル化、予防接種や成長記録の管理などが可能です。
たとえば、大分県豊後高田市では、ぶんごたかだ子育て応援アプリ「きらきらっこ」が採用されました。このアプリには、妊産婦と子どもの健康データの記録管理や予防接種のスケジュール管理、出産育児に関するアドバイスの提供、離れた地域に住む祖父母などの家族との共有機能など、便利な機能が充実しています。
子育て支援アプリは、自治体が子育て支援の情報提供をする際にも役立ち、自治体と住民両者にメリットがあるでしょう。
官民協働で情報発信に取り組む
近年、自治体による子育て支援も官民連携で行われるケースが増えてきているようです。子育て支援は移住や定住の促進につながる施策であり、自治体にとっては情報発信やプロモーションも重要な取り組みになります。
自治体が手厚い子育て制度を構築していても、きちんと住民に周知されていないと意味がありません。プロモーションの企画、WebやSNS等の運用、コンテンツ制作などの業務を委託できる民間企業と連携して取り組むことも効果的です。
サイネックスの「わが街事典」は、自治体の「伝えたい情報」と、住民の「知りたい情報」を発信する地域行政情報誌です。子育て支援施策を住民に広く認知・利用してもらうために、より効果的なプロモーションを行いたいときにおすすめです。
地域のニーズに合った施策を考えましょう

子育て支援のさまざまな取り組みについて紹介してきました。地域によって課題やニーズは異なるため、しっかり調査を行ったうえで実施することが重要になります。また、官民協働で取り組むことでより効果が期待できるでしょう。
サイネックスの「わが街事典『子育てガイド』」は、自治体の「伝えたい情報」と、住民の「知りたい情報」を発信する地域行政情報誌です。子育て支援施策を住民に広く認知利用してもらうために、より効果的なプロモーションを行いたいときにおすすめですので、活用されてみてはいかがでしょうか。
わが街事典『子育てガイド』(サイネックス)