サイネックス・マガジン

最近たまに聞く「どこでも市役所」とは?定義や具体的な取り組みを詳しく解説

目次
  1. どこでも市役所とは?
  2. 必要とされている背景
  3. 「どこでも市役所」で実現している行政サービス例
  4. 優先順位を付けて「どこでも市役所」に取り組もう!

皆さんは「どこでも市役所」という言葉をご存じでしょうか。耳にしたことがある人もいれば、聞いたことがない人もいるかもしれません。近年、多くの自治体で注目され始めている取り組みで、すでに実現した自治体や、実現に向けて段階的に進めている自治体もあります。今回は「どこでも市役所」とは何か、なぜ注目を集めているのか、具体的な取り組みは何か、について詳しく掘り下げて説明します。



どこでも市役所とは?

「どこでも市役所」とは、近年のDX推進や働き方の多様化を背景に始まった取り組みです。これまでは行政手続きをするためには市役所を訪れたり、直接連絡したりする必要がありましたが、住民が市役所などの場所に縛られず、身近な場所でスマートフォンなどを通して行政手続きができる体制を目指す自治体が増えています。そうした取り組みによって作られた体制を総称して「どこでも市役所」と呼ばれています。



スマートフォンの普及により実現可能に

「どこでも市役所」の特徴は、その名の通り「どこでも」市役所のサービスを受けられることです。たとえばスマートフォンを通して行政サービスを受けられたり、移動式・巡回式の行政サービス拠点が設けられたりして、わざわざ遠くの市役所まで行かなくても手続きができる状態が作られるなど、サービス提供のハブとなるツールや場所はさまざまです。サービス提供が場所に縛られることなく、住民が必要とする手続きを簡単に行えるようにして、市民の利便性を向上させる施策です。



マイナンバーカードで行政サービスの範囲が拡大

場所に縛られることなく行える行政手続きの代表的なものは、住民票や印鑑証明書の発行でしょう。マイナンバーカードが普及し、コンビニなどの証明書発行サービスで手軽に行えるようになりました。また確定申告など税金納付手続きも、今ではオンライン窓口で行えるようになっています。広い意味では、デジタル化とともに「どこでも市役所」は進んできたといえます。

一方こうした取り組みは国が主導するものでしたが、最近は、自治体単位で「どこでも市役所」を進めるところも増えてきています。自治体が対応している行政サービスの範囲はさまざまで、今は試行錯誤しながら、対応範囲を広げつつある過渡期といえるかもしれません。



AIやRPAなどのデジタル技術が進展

「どこでも市役所」が普及し始めた背景には、デジタル技術の進展があります。AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が実用的になるにつれて、行政窓口で公務員が担ってきた業務のうち、定型化できる部分を切り出して、WEB上でAIなどが対応できるようになりました。スマートフォンは今や高齢者でも持つ人が多く、こうした人たちでも取りこぼさず扱ってもらえる見込みが立ち始めたのも、普及の背景といえるでしょう。



必要とされている背景

デジタル化によってさまざまなことが実現できるようになっていますが、なぜ今「どこでも市役所」に注目が集まるようになったのでしょうか。その背景には、自治体ならではの事情があります。社会情勢によって、各地域でさまざまな課題が顕在化してきているのです。



移動困難な高齢者にも対応したい

日本の人口のうち、29.1%は65歳以上の高齢者が占めています(令和5年10月1日時点)。高齢者の中には移動が困難になり、市役所に行きにくくなる人も増えてきています。また自動車社会の地方では、運転免許を返納することで、これまで以上に移動できる範囲が限定されてしまう人もいます。そのような人たちに移動の負担を強いるのではなく、他の世代と公平に行政サービスを届ける観点から、「どこでも市役所」の検討が進められているといわれています。

(参考)内閣府:令和6年度 高齢社会白書



業務の効率化を進められる

自治体財政の健全性をみる指標として「財政力指数」というものがあります。1.0以上は地方交付税交付金が支給されない、つまり財政が健全な自治体となります。数値が低いほど財政状況は悪くなります。全国の市町村自治体の財政力指数は令和2年度から落ち続けており、令和5年度の平均は0.48と、非常に低い状況です。

そこで多くの自治体では、ひっ迫している財政状況を改善すべく、業務の効率化を進めています。「どこでも市役所」と聞くと、遠隔地でサービス提供する体制づくりや維持にコストがかかるイメージを持つかもしれませんが、AIに対応を任せたり、業務を外部委託したりすることで、コスト圧縮を実現することができます。また、頭を悩ますことが多い人手不足の解消にも寄与することが期待されています。

(参考)総務省:令和5年度地方公共団体の主要財政指標一覧



働く人や育児中の方の利便性も向上

「市役所に行きたいけれど仕事を抜け出せない」「育児にかかりきりで市役所に出向く時間を作れない」という経験をした方は多いはずです。「どこでも市役所」の取り組みが進むほど、市役所の開庁時間内に足を運べないことによる不便を感じることが少なくなるでしょう。

若い人たちの中にはデジタル世代と呼ばれ、生活の中にデジタルがあることが当たり前になっている人もいます。そのような人たちが気軽に行政サービスにアプローチできることで、住民の満足度が高まると考えられています。



「どこでも市役所」で実現している行政サービス例

「どこでも市役所」と一言でいっても、自治体によって実現している内容はさまざまです。自治体ごとに、地域に必要とされているものから優先順位を付けて、実現を進めている状況です。ここでは、具体的にどのような行政サービスを「どこでも市役所」として実現しているのか、紹介します。



AIチャットボットによる問い合わせ対応

これまで市役所窓口や電話で問い合わせがあったら、職員が都度対応をしてきました。しかし問い合わせ対応に時間がそがれ、本来やるべき業務ができなかったり、人によって対応の品質が違ったりするなど、業務品質や効率に課題がありました。

AIチャットボットでは、対話形式で自動的にAIが質問に答えてくれます。AIに答えられない質問は、職員に受け渡されるようになっており、役割分担をすることで業務効率向上や人手不足の解消に寄与しています。



LINEによる手続きや予約

LINEは多くの人が利用しているSNSですが、マイナンバーカードを利用した公的個人認証サービスを提供しています。この機能を利用して、LINEによるさまざまな申請や予約受付ができるようにしている自治体が増えています。住民は自らのスマートフォンにマイナンバーカードをかざして本人認証したうえで、LINEからメッセージ形式で申請するだけです。

さまざまな手続きができるようになっており、たとえば住民票の写しや記載事項証明書の交付申請、印鑑登録証明書の交付申請、健康保険証の再交付申請など多くの人に関係する申請ができます。それだけでなく高齢者予防接種の減免申請、自治体が運営する思いやり駐車場利用証の交付申請、水道の開閉栓の申請、育児相談の予約、妊娠後期面談の予約のようなものまで、かなり幅広い申請を行うことが可能です。



デジタルマップの閲覧

デジタルマップを作り、スマートフォンなどで見られるようにする取り組みも、近年急速に広がっています。市役所や出張所・公民館のような公共施設の場所だけでなく、防火水槽、消火栓、避難所、文化財、公営住宅、さらには過去の交通事故発生場所、防災ハザードマップなど、さまざまな情報がまとめられています。

こうした情報はこれまで、市役所に行って閲覧するか、定期的に配られるパンフレットなどを家に保管しておかなければ閲覧ができませんでした。しかしスマートフォンなどでこれらの情報をすぐに見られるので、災害時など、必要なときに速やかに情報にアクセスできるようになっています。



出張相談窓口の設置

「どこでも市役所」は、スマートフォンの中だけではありません。スマートフォンなどデジタルツールでは相談できないケースにも対応するべく、期間や場所を決めて、行政窓口が出張することがあります。公民館などで相談窓口を設ける自治体もあれば、場合によっては自動車に必要な機材を載せて巡回し、行政手続きや相談対応をして回る取り組みをしている自治体もあります。

職員と直接会わないと相談しにくいもの、たとえば「自宅に届いた申請書の記入方法を教えてほしい」「介護サービスを利用しようかどうか迷っている」「近所迷惑があって、どうしたらいいだろうか」というような相談に親身に寄り添って対応できるのは、出張相談窓口のメリットといえるでしょう。



電子図書館

インターネットを通して、自治体の図書館の本を閲覧できるサービスです。誰でも利用できるわけではなく、事前に利用者登録をすることで利用できるようになります。

利用形式はさまざまですが、インターネット上で「借りる」「返す」を選べて、一定の冊数を上限に閲覧ができるサービスがあります。図書館としては利用者数を増やすことができ、さらには返却忘れなどによる書籍の紛失などのリスクをなくせます。また、自動読み上げ機能などを付与することで、目が不自由な人でも公平にサービスを受けられるようになります。こうした利便性の向上は、デジタルならではといえます。



入札参加資格審査のオンライン申請

ここまでは住民向けの行政サービスをご紹介してきましたが、市役所は事業者向けにも行政サービスを提供しています。自治体が製品やサービスを購入する場合、入札が行われることが一般的です。販売金額を申告し、安くて条件がよい事業者に、自治体が発注する仕組みです。この入札に参加するためには「入札参加資格」を市役所で事前に登録する必要があり、「申請忘れ」などで機会を逃す事業者も多い状況でした。

それをオンラインで申請できるようにして、より便利に入札に参加できるようにする取り組みが広がっています。住民向けの「どこでも市役所」が現在では主流ですが、こうした事業者とのコミュニケーション分野でも、取り組みは進んでいくと考えられます。



優先順位を付けて「どこでも市役所」に取り組もう!

メリットが多い「どこでも市役所」ですが、デジタルシステムを導入するケースが多いこともあり、一定のコストはかかります。無計画になんでも実現しようとすると、財源不足や人手不足による壁に当たるかもしれません。自分たちにとって何が必要か、まずは優先順位を考えてみて、コストや実現にかかる手間と相談しながら、計画を立ててみることをお勧めします。

サイネックスは、自治体のDXサポート事業のなかで、「どこでも市役所」の実現をご支援しています。とくに「わが街AIチャットボット」は全国109の自治体 (令和6年3月末現在)で利用されており、参加する都道府県および市区町村による共同利用システムにより、日々応答精度を向上させてきました。ご興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

わが街AIチャットボット

  1. Top
  2. サイネックス・マガジン
  3. 最近たまに聞く「どこでも市役所」とは?定義や具体的な取り組みを詳しく解説