サイネックス・マガジン

とにかく多彩!地方自治体による過疎化対策の成功例10選

目次
  1. 正しく知ろう!過疎化とは
  2. 過疎化対策に成功した事例
  3. まとめ:過疎地の持続的発展に向けて

過疎や人口減少が深刻化する地方では、多くの自治体が地域活性と経済の維持を狙った取り組みを推進しています。その中には従来の仕組みや固定概念にとらわれないものもあり、過疎化の緩和だけでなく、産業創出やシビックプライド(地域に対する愛着)の醸成などに大きく寄与しているものもあります。これらの取り組みが、なぜ一定の成果を挙げているのか、事例を取り上げながら考えます。



正しく知ろう!過疎化とは

過疎化とは、人口が減少し続け、地域住民の生活水準を維持できず、学校や病院などの公共施設が閉鎖される状況を指します。実際にそのような状況に陥った地域を過疎地域と言います。過疎地域では、農水産業や畜産業など地域産業の担い手である若者が不足し、やがて地域の企業が廃業に追い込まれるリスクもあります。
 
既に全国には様々な問題を抱えた過疎地域が存在し、とくに地域経済や住民生活の利便性悪化が深刻化しつつあります。いまや、住民や企業が地域資源を活用しながら協力する取り組みが、生活水準の維持と地域活性化に欠かせないものとなっているのです。



公共インフラなど集落機能の維持が困難に

人口減少が進むと、これまで当たり前にあった都市機能を維持しきれなくなります。都市機能とは、水道・電気・ガスなどのライフライン、公共交通などの交通インフラ、病院や介護施設、娯楽施設といった、人の生活に密着に関わるサービス全体のことを指します。こうした都市機能の維持が難しくなると、防災力や地域活動の低下、住民満足度の低下につながります。
 
人口減少で町内会や自治会といったコミュニティが弱まり、お祭りや消防団など住民主体の活動が弱まる面もあります。そして地域内の連携が途切れると、住民の一体感や愛着が薄れ、人口流出が加速してしまう恐れも高まります。地方経済や社会を支えるためには、多くの住民が参加しやすく企業の支援も得られる仕組みづくりが必要です。コミュニティを再生・維持する取り組みはまちの魅力を高め、観光や交流人口の増加につながるでしょう。



自治体や集落の消滅も起こり得る

全国1,729自治体の約半数にあたる744自治体が消滅可能性都市に該当しています。消滅可能性都市とは、民間の有識者グループである人口戦略会議が提唱している考え方で、若年女性人口が2020年から2050年までの30年間で50%以上減少する自治体、として説明しています。
 
若年女性人口が5割以下に減ってしまうと世代交代もままならず、地域の文化や歴史が途絶える危険性もあり、無居住地域が多くなり、集落としての存続が難しくなります。こうした状況を防ぐには、自治体や住民が連携し、多様な施策によって人口減少を食い止める努力が重要です。



既に始まっているコンパクトシティ化の波

住まいや公共交通を中心部へ集約する「コンパクトシティ化」が、国策として、全国各地で進んでいます。かつては人口増加を想定して道路や水道管を拡大整備してきましたが、今は維持コストがかさみ、利用者不足のため事業採算性の悪さに苦しむ地域が増えています。
 
将来的に人口減少から回復が見込めないエリアでは、長期的に住宅エリアから外すことも検討されています。分散している都市機能を居住区域等に絞って集約・効率化することで、自治体の財政負担を下げると同時に、都市機能の持続性を確保する狙いがあります。



過疎化対策に成功した事例

多くの地域で過疎化対策が進められていますが、成功したものもあれば、思うような成果が挙げられない事業もあります。まずは成功事例を知り、自分たちの自治体でどう活かすか検討してみてはいかがでしょうか。これから紹介する自治体はどこも、自らの特徴を上手く利用して、時には弱みを強みにして、過疎化対策で成果を挙げています。



東京都神津島村|過疎を逆手に取って「星空保護区」に認定

人口約2千人の東京都神津島村は、ダークスカイプレイス・プログラム(星空保護区認定制度)を利用して、魅力的な観光資源を創出した事例です。離島で都市の光が入りにくいため、暗く自然な状態に近い夜空を維持できてきており、民間でやってきた星空観察会などが下地となり、国際機関の厳しい基準をクリアして、星空保護区の認定に至りました。
 
神津島村は厳しい過疎化に見舞われていますが、光害の少ない環境を活かして星空観察をメインとする観光客の増加に成功していると言われています。さらに、ダイビングや釣りなど夏中心だった客層が、オフシーズンの秋冬にも足を運ぶようになり、地域経済にも良い影響が生まれているそうです。日本では神津島村のほか、福井県大野市や岡山県井原市美星町、西表石垣国立公園などが星空保護区の認定を受けています。



徳島県神山町|DX推進でIT企業を呼び込む

徳島県神山町は、高速ブロードバンド整備とサテライトオフィス誘致によって、過疎地域の活性化に成功した成功事例です。自治体やNPO法人グリーンバレーが通信費や古民家改修費を支援し、全国からIT企業が続々と集結しています。
 
結果的に40社以上が拠点を構え、2016年には156世帯234名が移住し、住民との交流を通じたまちの魅力向上が生まれました。持続的に事業運営できるネット環境の提供により、地方と企業の連携が深まり、地域経済の安定や雇用創出にもつながっています。



岩手県二戸市|たった19戸の集落が人口減少をくい止める

岩手県二戸市の門崎集落は、平成24年には農林祭むらづくり部門で天皇杯を受賞し、小規模でも自主的な取り組みで地域を活性化させられる例になっています。たった19戸の過疎地域ながら、住民同士が何度も話し合い「たむらづくり10カ年計画」を策定しました。
 
この計画では、「集落の若者がお盆や正月に帰りたくなる」をコンセプトに据えて、景観整備やバス停の整備、直売所の運営など、地域資源を活かす活動を重ねた結果、若者4名がUターンして農業を担い、地域の産業を維持しています。人が少なくても、住民自らの取り組みで成果を上げた、素晴らしい事例と言えます。



徳島県上勝町|高齢者が活躍する「葉っぱビジネス」

徳島県上勝町では、自治体が中心となって出資して作られた第3セクターの会社「株式会社いろどり」が高齢者の力を生かして“つまもの”を出荷する葉っぱビジネスを展開中です。“つまもの”とは、和食や割烹料理のお店で料理の彩りとして添えられる葉っぱです。
 
住民の自宅の庭や畑で“つまもの”を育て、パソコンやタブレットで注文管理を行うことで、高齢者も手軽かつ積極的に、生産・出荷に参加できる仕組みを構築しました。
 
きっかけは、過去の大寒波でみかん栽培が打撃を受けたことで、産業転換を迫られたことだったそうです。そこで新たな事業として「いろどり」が始まり、今では全国的に注目され、町の経済を支える大きな原動力にもなっています。高齢化が進む地方でもICTを活用すれば活力を創出できることを証明した事例といえます。



北海道厚沢部町|都市にはない教育機会を「保育園留学」で提供

北海道厚沢部町は、既に20年前と比べて人口が70%も減少しており、過疎化地域となっています。そのよう状況を悲観的に捉えず、「世界一素敵な過疎のまち」を目標に据えて、子育て施策を推進しています。
 
認定こども園「はぜる」で始めた「保育園留学」は、公園や菜園などをそのまま活用し、伸びやかな教育環境を提供する制度です。域外からの子どもを受け入れ続けており、定員稼働率は75%を記録しています。留学家族向けの宿泊施設やコワーキングスペース、食体験などを組み合わせて長期滞在を可能にしています。自然の中で子育てできる機会が人気を集め、さらには両親のことも考慮したサポート体制が完備されていることで人気を博しています。
 
この取り組みのきっかけは、人口減少に伴う保育園の統合だったそうです。過疎化による変化を上手く活かして、既存の保育園の概念にとらわれない形で、持続的なまちの発展を目指している事例です。



宮城県丸森町|挑戦あるのみ!住民自ら地域課題を解決

宮城県丸森町の一般社団法人筆甫地区振興連絡協議会は、「筆甫まちづくりセンター」の管理を町から任され、従来業務を超えた地域課題の解決を進めている団体です。単に施設の管理を行うだけでなく、高齢者宅を回る移動販売や、地域唯一のガソリンスタンドの事業承継、獣害対策や地域ブランド品の開発など、活動は限定されておらず、広範囲にわたります。過疎地域の存続には住民が協力し合って、地域課題を解決していく姿勢が必要不可欠で、それを自立して実践できている事例として注目されています。



新潟県長岡市|「デジタル村民」で交流人口を拡大

新潟県長岡市の山古志地域では、2021年に錦鯉をシンボルとした電子住民票をNFT(ブロックチェーンによる電子証明技術)で発行し、世界中の人がデジタルコミュニティに参加できる仕組みを作り上げました。そこで得た資金と知恵を自然環境の保全や角突き文化の保持に活用し、海外からも注目されています。
 
2022年時点で参加者は1,000人を超え、多くの関係人口を呼び込むことに成功しています。過疎化に悩む地域も、拡大するデジタル技術を使えば、土地の制約を超えて新たな可能性を切り開ける事例になっています。



福島県田村市|ブルワリー産業を復活して観光化

福島県田村市ではかつて、ビールのアクセントになるホップの一大産地でしたが、近年は生産が途絶えていました。しかし東日本大震災を契機に一念発起した住民が起業し、多くのクラフトビールメーカーがホップを外国産に頼っている状況に差別化のポイントを見出して、国産ホップによるクラフトビール製造を行うようになりました。
 
自治体も避難指定区域で休眠いていた公共施設の一部を無償譲渡するなど積極的に後押しました。今では複合施設「グリーンパーク都路」を拠点に、市内の契約農家から仕入れた材料で作ったビールを作るブルワリーを運営しており、地域の方々が集まり交流する場を目指して、地産地消の取り組みを進めています。



兵庫県豊岡市|そこでしか体験できない「温泉文学」

歴史ある温泉街を有する兵庫県豊岡市は、文豪が温泉旅館に宿泊しながら名作を生み出した歴史にスポットを当てて「温泉文学」と呼び、それを体験できる独自の試みを行っています。街の中心部に点在する温泉施設で作家を招き、作品の発表や交流会を行う企画をしたり、訪れた人々が温泉に浸かりながら文学に触れられる特殊な空間を作ったりして、人気を博しています。
 
温泉と文化を掛け合わせることで地域の魅力を高め、多くの観光客が興味をもって滞在し、結果的に地域経済の発展にもつながりました。施設の整備やサービスの向上によって、豊岡ならではの文化的体験が提供されています。



大分県国東市|誰ひとり取り残さない、人に優しいデジタル化

大分県国東市では、高齢者から若者まで誰でも使いやすいアプローチで、デジタル化を進めています。過疎地域と都市部をつなぎ、取り残さないためにはデジタル技術の普及が必要不可欠だからです。
 
高齢者をはじめとする住民への普及啓発を、草の根レベルで支えているのが「くにさき地域応援協議会 寄ろう会」です。スマホ教室など様々な活動を展開していますが、とくに効果を発揮しているのが、地域づくり支え合い活動共通 Web サイト「国東つながる暮らし」です。これまで協議会で交流できていた場の存続が危うくなり、Web上で気軽に情報共有や発信が行える環境づくりとして立ち上げられました。
 
ポストコロナの現在でもWebサイト上で活発な情報交流が行われており、集まる発信の大半はInstagramによる投稿です。こうした投稿を高齢者でも行える環境を作ったことが、高く評価されています。



まとめ:過疎地の持続的発展に向けて

地域経済や文化を維持し、さらに盛り上げるためには、自治体と企業の連携が欠かせません。しかしそれだけでなく、過疎による直接的な影響を受ける住民自らが危機感をもち、行動することが何よりも大切です。
 
危機感を住民にもってもらうために、多くの自治体は啓発活動に苦心しています。「知ってもらう」ことが非常に重要だからです。いくら積極的に活動しても「知ってもらい」、「危機間をもってもらわなければ」、取り組みは始まらず、始まっても広がらないからです。
 
サイネックスは、住民が「知ってもらう」「危機感をもってもらう」ために、官民協働で発行する地域行政情報誌「わが街事典」を発行しています。地域に合わせて様々な情報を発信していますが、とくに近年注目されているのが、空き家の問題です。当社は「空き家対策情報誌(通称:空き家ブック)」の発行も地域支援として行っています。
 
「まずは空き家の状況について知ってもらいたい」「今からでもできる空き家対策を伝えたい」といった課題感をお持ちの方は、ぜひご連絡ください。
 
わが街事典 (空き家対策情報誌)

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