サイネックス・マガジン

官民協働で進める!人口流出対策の最新戦略

目次
  1. 人口流出の原因を多面的に考える
  2. 人口減少を食い止めるための支援制度
  3. 地域創生に向けた具体的施策
  4. 官民協働による施策

地域全体で若者の流出が続いて人口が減少すると、経済や生活、そして社会の活力が失われる可能性があります。その対策として、企業との連携を強化し、地域の課題を反映した対策を講じる自治体が増えてきました。
 
自治体の取り組みのなかには、医療や教育の充実策、観光イベントの活用など、総合的な支援制度を設ける事例も見られます。また、移住希望者への案内やSNSなどを活用した情報発信、防災や健康福祉の整備も有効な方法と言われています。
 
これらの取り組みを組み合わせた人口流出対策を推進することで、自治体の魅力を高め、域外への転出を抑制する結果が期待できます。さらに、行政や公共施設と企業の連携を強化することで、住民が安心して暮らせる地域づくりも進められています。




人口流出の原因を多面的に考える

人口流出の原因として、都市部への企業の集中が挙げられます。既に多くの若者が条件の良い仕事を求めて地方から都市へ移動し、地域経済の活力が失われつつあるのです。
 
総務省の調査結果によれば、都市圏への人口流出の原因として約9割の人が「良質な雇用機会の不足」を回答したそうです。ここでいう良質な雇用機会とは、「賃金や安定性、やりがい」等であるとされています。労働力不足と消費需要の減退が地域で同時進行することで、社会や地元産業に大きな悪影響が及ぶでしょう。企業誘致や総合的な支援制度を通じ、地域に雇用と魅力を育てる政策を進めることが必要となります。

(参考)
総務省:平成29年版 情報通信白書のポイント
総務省:平成27年度 情報通信白書のポイント



調査データから分かる人口流出の背景|良質な雇用環境の不足

内閣府が公表した「地域課題分析レポート(2024年秋号)~ポストコロナ禍の若者の地域選択と人口移動~」によると、三大都市圏への人口集中は加速しています。東京圏・大阪圏・名古屋圏はコロナ禍で人口流入数は急減したものの、2022年以降、いずれも再び加速しています。特に東京圏は圧倒的で、2023年時点において、大阪圏・名古屋圏と5~10倍近い流入数があります。
 
内閣府の報告は、若者が都市に集中する理由についても解説しています。20~29歳を対象としたアンケートで移動理由を質問したところ、20.6%が「入学・進学」、62.5%が「職業上の理由」と回答したそうです。

引用:内閣府、地域課題分析レポート(2024年秋号)~ポストコロナ禍の若者の地域選択と人口移動~

地元就職を希望しない理由としては、男女ともに30%強が「志望する企業がないから」と回答しており、他にも「都市の方が生活の上で便利だから」「給料が安そうだから」なども高い結果となっています。
 
(参考)
内閣府:地域課題分析レポート(2024年秋号)~ポストコロナ禍の若者の地域選択と人口移動~



調査データから分かる人口流出の背景|Uターン希望者の受け皿不足

一方で、地方へUターンしたい若者は増加傾向が見られます。2025年卒見込みの就活中の大学生にアンケートを行った、Uターン希望割合は、コロナ禍前の2020年卒と比べ、全地域、特に地方(東北、東海、北陸、九州・沖縄等)で増加傾向にあります。

引用:内閣府、地域課題分析レポート(2024年秋号)~ポストコロナ禍の若者の地域選択と人口移動~

しかし、地域によっては希望者が望むような環境を用意できず、受け皿がないためにUターンを実現する機会を逸してしまうこともあるようです。都心と同じことを実現することは不可能ですが、今後自治体としては、Uターン希望者の要望をしっかり把握したうえで、地域ならではの良さを打ち出していくことが必要になってくるでしょう。
 
(参考)
内閣府:地域課題分析レポート(2024年秋号)~ポストコロナ禍の若者の地域選択と人口移動~



経済環境と雇用状況の変化|自治体が直面する重大課題

地域の経済活動が縮小すると労働力や利用者が足りず、公共サービスの維持が難しくなります。総務省が公開している資料によると、日本の国土の0.6%に3割弱の人口が集中しており、特に東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の地方自治体の財政力が高いのに対して、地方の財政は厳しい状況に置かれています。

引用:総務省、地域・地方の現状と課題

人口が減少すれば、企業撤退や店舗閉鎖へと連鎖し、ひいては自治体財政を圧迫するという状況を示していると言えるでしょう。こうした連鎖は雇用や学業の機会だけでなく、中長期的には住みやすさといった、生活の利便性を低下させていくでしょう。例えば学校、病院、娯楽施設などの不足を理由に、更なる人口流出が進めば、地域が疲弊してしまうことは間違いありません。

(参考)
総務省:地域・地方の現状と課題





人口減少を食い止めるための支援制度

国は平成26年に「まち・ひと・しごと創生長期ビジョンについて」を閣議決定し、「2060年に1億人程度の人口を維持する」という中長期展望に基づき、地方自治体と連携して様々な政策目標を打ち出しました。そして子育てや雇用、教育環境など多面にわたる施策が展開され、移住者への補助金や就業支援の仕組みも整えられてきました。
 
たとえば若い世代に適した住宅支援策を設けたり、地域の企業が連携して新たな産業を創出したりする事例も増えています。観光資源の活用による地域活性化や、地元産業を強化して経済を底上げする方策も並行して進め、総合的な支援体制で人口減少の流れを食い止めようとする取り組みが各地で実施されているのです。地方が自らの強みを生かして発展するために、国の後押しと地域の創意がこれからも鍵となるでしょう。

(参考)
総務省:まち・ひと・しごと創生長期ビジョンについて



若者や子育て世代を取り戻す工夫|教育や企業誘致による魅力づくり

地方では、新しい産業誘致と雇用創出を連動させ、 若者の定着率を高めるための制度設計が進められています。

例えば徳島県神山町のように、神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックスをIT企業が設立し、 地元の高校でプログラミング教育を導入する事例はその象徴的な例といえるでしょう。神山町はBPOセンターを誘致して多様な職種を生み出す取り組みを推進しており、地域経済の活性化と若者や子育て世代の生活基盤整備を同時に進めています。デジタル技術を活用する環境づくりが、地域の魅力を高める大きな要素になっているのです。

こうした企業誘致の取り組みは、従来のような道路や鉄道を通し、工業団地を造成するような大規模投資が不要です。最小限の投資で高い効果を狙える施策といえるでしょう。神山町でこうした取り組みができているのは、町として「過疎地域持続的発展計画」を5カ年計画として策定して、「新たな産業としてサテライトオフィスの誘致も引き続き行い、コンプレックスにおける国内外からのスタートアップ起業支援にも協力する。」と明記し、行政計画として明確に位置付けているからでしょう。



医療・福祉の充実と生活環境向上|総合的支援策で転出リスクを防ぐ

国土交通省は「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を打ち出し、都市部一極集中の是正や地方での快適な暮らし実現を目指しています。企業の地方移転や移住推進のほか、結婚・出産・子育てのサポートを拡大し、AIやビッグデータを活用して結婚支援を行うなど、人口流出対策につながる多面的な取り組みを支援する制度です。

また医療や交通などのインフラ整備にもデジタル技術を活用し、地方でも都市に遜色ない利便性を保てるようにする試みも広まっています。こうした施策によって住みやすい環境が整えられることで、人口流出の防止・軽減に寄与することが期待されています。




地域創生に向けた具体的施策

国と地方が連携して地方創生推進交付金などを活用し、Uターン(出身地への再移住)・Iターン(全く新たな地方への移住)・Jターン(大都市へ一度移住した後に近隣都市へ転入)による人材還流を後押しする取り組みが活発化しています。
 
たとえば青森県ではマッチングサイト「あおもりジョブ」を運用し、東京圏からの移住者を対象に世帯なら100万円、単身なら60万円の移住支援金を支給しています。こうした事業は都市への一極集中の緩和と地方での人材確保を目指す方針によるもので、産業活性化と生活インフラ整備の両面で地域社会を支える成果が期待されています。



観光資源とイベント活用|地域ブランドの強化で人の流れを強力促進

地域独自の魅力をアピールする観光振興やブランディング戦略は、定住者の増加にもプラスの影響を及ぼしています。
 
たとえば島根県海士町の「ないものはない」というキャッチフレーズは、地域の魅力再発見につながり、観光客の増加とU・Iターン率の上昇を同時に実現しました。熊本県の「くまモン」は地域ブランディングの代表例で、観光業のみならず地元企業との商品開発やイベント開催を通じて400億円を超える経済効果を生んでいます。



公共交通やインフラ整備|移動の利便性向上で地域の魅力を高める

人口流出が深刻化する自治体では、公共交通の維持が事業採算性の面で厳しくなっています。さらに、バスや鉄道の路線廃止が広がると通勤や通院に支障が出てしまい、生活環境の不便さが人口流出を進める原因になります。公共交通機関に限ったものではありませんが、人口流出が公共交通の利便性を低下させ、更なる人口流出につながる、といった負のスパイラルに陥ります。 運転手不足も大きな問題となっており、サービス縮小が今後さらに進む原因になり得るため、オンデマンドバスや乗合タクシーなど、新しい運行施策に挑戦する地域も出てきました。

たとえば塩尻市はAIを活用してバス停に縛られないオンデマンドバスの検討を進めています。岩手県雫石町は、自治体が地元NPOに管理を委託し、地元タクシー会社と連携した乗合タクシーを運行しています。

公共交通が果たす役割は通勤手段だけでなく観光や商業にも直結するため、自治体と事業者による連携の強化が重要な課題となっています。地域の魅力を高めるには、交通や生活インフラの総合的な見直しが欠かせません。




官民協働による施策

自治体と民間企業が協力し合う官民協働による施策は、 人口減少への取り組みに大きな相乗効果を生みます。具体的には、空き家や空き施設を活用して企業が新事業を始める際に、自治体が初期費用を一部支援したり、企業側がノウハウを提供して地域資源を活かした商品開発に挑戦したり、民間のノウハウによる効果的な情報発信を実現した例が増えています。

農業や観光、IT分野など幅広い産業で官民協働プロジェクトが進展すれば、雇用を生むだけでなく地域住民の意識向上にもつながります。インターンシップや研修制度を整え、若者が地元企業で働くきっかけをつくる事業も見られます。

防災や医療体制など公共性の高い分野でも企業の技術や資金を取り込み、互いにメリットを享受しながら地域社会を持続的に発展させる取り組みが広がっています。官民連携は総合的な対策を組み立てるうえで欠かせない手段となっているのです。



移住希望者を呼び込む施策|相談会や視察ツアーで具体情報を提供

移住希望者に向けた地域ツアーや相談会を官民連携で実施している自治体の事例が増えています。具体的には、地元企業が観光や生活情報の提供・対外発信に積極的に関与し、効果を上げています。移住希望者向けの相談会では、企業が地元の雇用状況や産業の情報を提供し、移住の不安の解消に寄与しています。移住希望者向けの地域ツアーでは、企業が移動手段や宿泊施設、訪問ルートを提供し、参加者に地域の魅力を身近に感じてもらっています。

例えば北海道標茶町では、都市圏の乗馬ファンにターゲットを絞った移住促進の取り組みを町内外の馬関連事業者等と連携して展開しています。こうした取り組みにより、移住希望者が安心して新しい生活を始められる環境が整いつつある自治体も増えてきました。



防災や健康福祉など多面的アプローチ|空き家を効果的に活用

民間企業は空き家問題の解決において重要な役割を果たすことがあります。たとえば、データ分析技術を活用して空き家の現状を詳細に把握したり、地域社会や移住者のニーズに柔軟に対応したサービスを提供したりする取り組みが挙げられます。

長野県富士見町では、コワーキングスペース「富士見 森のオフィス」を2015年に設立し、自治体からの委託を受けた民間企業が運営しています。移住者にとっての仕事場や交流の場であり、地域住民の方々にとっては困りごとを相談するスペースとして有効活用されています。

また企業によっては、空き家を改装して観光施設や若者向けの賃貸住宅に再生することで、地域の経済活性化を推進することもあります。空き家を地域の活動拠点として活用し、地域コミュニティの結束を強化します。これらの取り組みにより、空き家が放置されるリスクを軽減し、地域の安全性や景観を維持する効果を発揮しています。



転出抑制に向けたICT活用|検索サイトやオンラインページの有効戦略

企業が地方での採用活動を積極的に行う事例も増えています。地域限定採用など、地域に根差すことを前提とした人材採用も、珍しくなくなってきているのです。

この背景には、デジタル技術の普及があります。オンライン面接やWeb説明会が当たり前になり、遠隔地でも参加しやすい環境が整備されています。リモートばかりではなく、対面の機会創出のために交通費を一部支給する企業も見られ、経済的負担を軽減しています。

近年は都市部からの移住者を雇い入れた事業主に対し、企業の採用活動に要した経費の一部を助成する制度も設けられており、都市部一極集中の是正が進められています。また、SNSで求人情報の発信により地元就職の魅力を向上させています。コロナ禍でICTを活用した採用活動が拡大し、企業と学生の接点を増やすことで転出抑制にもつながっています。今後は、こうした取り組みをさらに進め、地域に人材を呼び込むことが重要です。

(参考)
早期再就職支援等助成金(UIJターンコース)



各種媒体を活用した情報発信|地域ポリシーを積極的に伝える手法

自治体は公式サイトやSNS、地元の新聞やテレビ番組など、多様なメディアを活用して情報を発信しています。動画やライブ配信を取り入れることで、地域の魅力や政策内容をより臨場感をもって伝えられるようになりました。しかし情報コンテンツの準備や制作には手間とコストがかかり、それが本業でない職員の負担は大きくなる傾向があります。そこで企業やNPO、住民団体と連携して情報発信媒体を運営する手法が増えています。

民間企業とのコラボレーションによってイベントを開催したり、魅力的な情報媒体を作り上げたりして、自治体の取り組みや地域の魅力に対する認知度を高める試みも盛んです。複合的な情報発信を行うことにより、地域のポリシーに対する理解と共感を広い層から得ることが期待されます。効果的な広報戦略が地域の未来を支える後押しとなっているのです。

サイネックスは地域行政情報誌『わが街事典』を官民協働事業で発行しており、 平成19(2007)年からはじまり、2024)年の秋田県大仙市の「だいせん 暮らしの便利帳」の発刊により、ついに発刊自治体数が1,100に至りました。

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