近年の自治体が抱える地域課題とは?課題別に解決事例を紹介
近年、地域にはさまざまな課題が山積しているといわれています。すぐに解決できるものではなく、長期的な取り組みが必要とされるものばかりです。自治体は何らかの対策を行い、課題解決に取り組む必要があります。
財源、人手、知識、経験に限界がある中で、どうやって解決していけばよいのでしょうか。そこで今回は、地域課題を効果的に解決した具体的な事例を紹介します。なお、ここで紹介するのは課題解決に取り組んだ一部のプレイヤーですが、実際にはさまざまな関係者と協力しており、地域全体で協力し合う体制が必要になることは踏まえておきましょう。
関係人口の拡大
関係人口とは、その地域に住んでいなくても間接的につながりがある人の数を示す概念です。たとえば観光客や、地域の出身で大学入学や就職などにより外に出ている人などが挙げられます。関係人口に含まれる人達は、定期的に地域に足を運んだり、ふるさと納税や特産品の購入などで地域を応援してくれたりするなど、間接的に地域創生に携わってくれます。
人口減少が避けられない中で、定住者だけを追い求めていると、自治体同士で住民の奪い合いになってしまいます。交通の便が悪い地域など、どうしても他の都市には立地条件で負けてしまう自治体でも、関係人口であれば、そういった制約に囚われずに増やすことが可能です。
島根県海士町:島留学制度
出典:島根県立隠岐島前高等学校HP
島根県海士町はフェリーで片道3時間かかる離島にある町です。人口減少により、島で唯一の高校の存続が危ぶまれるほどでした。そこで自治体が旗振り役となって、関係人口の拡大を目指して「島留学」制度を設けました。
島留学制度とは、島外から高校生を募集する制度です。豊かな自然環境、顔の見える安全安心なコミュニティの中で学業に専念する環境を提供しており、これまでで、全国から200人以上を受け入れてきました。また「島親制度」といって、島留学生に1人「島親さん」が付き、親代わりとして慣れない島での生活を支えるなど、手厚いサポートを提供しています。
こうした取り組みが効果を発揮し、卒業生が海士町で就職したり、海士町を離れても定期期に訪れたり、住民と連絡を取り合い続けるなど、強いつながりをもつ関係人口を生み出せています。
子育て世代の定住促進と教育環境の確保
子育て世代が定住することで、地域の人口を中長期的に維持する見通しを立てやすくなります。子育てをしている家庭は、親の転勤などがない限り、子どもが独り立ちするまでその地域に住み続けるからです。
また、地域で育った子どもはその地域に愛着をもち、そのまま定住したり、域外に出た後も関係人口の拡大に貢献してくれる可能性があります。子育て世代が定着するためには、安心・安全な生活環境や、子どもに質の高い教育を受けさせられる教育環境が重要になるといわれています。
山形県東根市:子育て応援5つ星
出典:山形県東根市移住ポータルサイト「住んでみて!ひがしね」
山形県東根市は、総合的な子育て支援を行った自治体として草分け的存在です。「子育て応援5つ星」と銘打ち、妊産婦への検診費用助成、未就学児の医療費無料化、休日保育の実施、小学生の入院費無料化、父子家庭の医療費無料化などを実施しました。
総合保健福祉施設や民間保育所等の完備や、当時県内初の県立中高一貫校を誘致して文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール」に認定されるなど、県内でもトップクラスの教育環境を整備しました。こうした総合的な取り組みの効果もあり、人口は緩やかに増加しています。
企業誘致による経済活性化
働きたくなるような魅力的な企業が地域内に立地していることで、移住が促進されたり、子育て世帯が定住しやすくなったりするなど、人口減少を緩和できるという見方もあります。
仮に住民が域外の企業に通勤する場合、日中は地域の外に出て昼食・夕食等の消費が行われます。そうなると地域にお金は落ちにくくなるため、地域に定住していても効果が小さくなってしまうかもしれません。最悪の場合、通勤に時間がかからない域外へ引っ越してしまうこともあり得ます。
自治体は企業誘致のために助成制度を設けたり、大規模な投資を行って工業団地を整備したりしています。しかし、こうした施策は大規模な財源確保が必要で、他地域との競争も激しいといった課題があります。大規模な工場を誘致するには土地の安さや税制優遇だけでなく、交通機関の近さや都市部へのアクセスのしやすさなども重要で、自治体によっては取り組むのが難しい場合もあります。
こういった従来の企業誘致策だけでなく、地域ならではの特徴を生かして創意工夫した施策を実行していくことも重要です。
福井県鯖江市:サテライトオフィス誘致
福井県鯖江市は、立地条件や製造業などの業種にこだわらず柔軟な視点で企業誘致を進めている事例です。市内に1,000棟近くある空き家を有効活用する形で、サテライトオフィスの誘致を推進し、総務省の「おためしサテライトオフィス」モデル事業にも採択されました。
「おためしサテライトオフィス」という制度を設けて、鯖江市でのサテライトオフィスを体験してもらったり、空き家の改修費に補助金を出したりと、積極的に企業の誘致を進めています。
都市サービス機能の維持
出典:総務省「おためしサテライトオフィス」取組団体の紹介
地域の人口が減れば、老人ホームや病院、学校、公共交通、ガスや電力供給といった都市サービス機能の維持が難しくなってきます。一定の人口減少は避けられない中で、これまでの都市機能をよりコンパクトにすることで、社会の変化に適応する自治体も増えてきています。
多くの自治体では「コンパクトシティ」を推進することで、地域課題の解決に取り組んでいます。コンパクトシティとは、都市機能を集約して効率化した都市のことです。住民が住むエリアも長期的な視点で集約していくことで、都市機能の維持に必要な人口を確保します。
一方で、コンパクトシティで都市機能が集まるエリアから外れたエリアは、都市機能が減衰してしまう課題もあります。そういった不公平を防ぎ、何らかの形で都市機能を提供することも重要な地域課題となっています。
滋賀県米原市:デマンドタクシー
出典:米原市「まいちゃん号の運行について」
滋賀県米原市では、地元のバス会社が赤字に耐えられなくなり、彦根米原線の廃止が決定したことがきっかけになり、デマンドタクシーが導入されました。
デマンドタクシーとは乗る人が事前に乗る場所と降りる場所を予約して利用する、乗合タクシーです。バスが撤退することで、生まれる交通の空白地域をデマンドタクシーが埋めています。
完全予約制の乗合タクシーで、予約されたときだけ運行する仕組みにしてコストを圧縮することで、500円程度で利用できるようになっています。
公共施設の最適化・廃止施設の有効活用
多くの自治体では、現在ある公共施設すべてを維持することは難しいため、公共施設の中長期的な管理・集約化計画が検討されています。今後は公共施設の閉鎖や統合を積極的に実施していくことになるでしょう。
一方で、閉鎖される公共施設の建物をどう活用するかは大きな地域課題になっていくかもしれません。解体して平地にしても、民間事業者が土地を借りて、新たな事業所を建設することは期待しにくいかもしれないからです。
東かがわ市:キャビア生産事業者への施設提供
出典:農林水産省「農山漁村を元気にする廃校再生プロジェクト」
民間企業が廃校を活用してチョウザメの陸上養殖を実現し、キャビアの大量生産を実現した事例です。養殖数は約10,000尾と多く、生産技術を確立した後は他の自治体で養殖場を新設し、今では都心で飲食事業を展開するまでに成長しています。
きっかけは、母校が廃校になることが決まったことを知った社長が、廃校の有効活用を思い立ったことだったそうです。体育館を養殖所、家庭科室を加工所、理科室は研究開発室、職員室はオフィスとして活用しています。今では観光施設としても地域創生に貢献しています。
放置された森林や田畑の有効活用
地域によっては森林や田畑が面積の大半を占めることもあり、それらを有効活用することが地域課題になっています。担い手不足や採算性の悪化等の理由から放置され、荒れていくうちに経済価値がなくなってしまう場合もあるからです。
荒れ放題になると、治水や害虫など、これまで手を入れて維持してきた多面的な機能が失われることになるといわれています。一方で、従来の第一次産業の枠を超えて、新たな方法で自然資源を活用し、地域課題の解決に取り組んでいる事例も出てきています。
岡山県西粟倉村:百年の森構想
出典:西粟倉村「百年の森構想」
岡山県西粟倉村は、面積の93%が森林で占められている自治体です。かつては木材生産が盛んでしたが、木材需要の低下と海外産材の価格競争、担い手不足により基幹産業である林業が衰退し、解決するべき地域課題となっていました。
そこで西粟倉村は「100年の森構想」掲げました。個人所有の森林を村が10年間預かる長期施業管理契約を締結し、土地を集約しました。さらに、個人を対象としたマイクロファイナンスである「西粟倉村共有の森ファンド」を民間企業と協力して立ち上げ、4,900万円の資金調達を行い、それを原資に高性能機械を調達して、林業の高効率化に取り組んだそうです。
またFSC認証、木材に関わるベンチャー企業の誘致、積極的なマーケティング活動を展開することで、林業の六次産業化を実現しています。
脱炭素化の実現
今や多くの自治体は、2050年までに地域全体のカーボンニュートラルを実現するべく取り組んでいます。この目標は市役所だけのものではないため、地域の家庭・企業を巻き込んだ脱炭素化を進める必要性に迫られています。
地域の脱炭素化を実現するには、「再エネ発電所の誘致」と、発電された電力が地域内で消費される「エネルギーの地産地消」の両方が必要になるとされています。企業にとっても再エネ調達は産業競争力に直結する課題になりつつあり、自治体の中には再エネの地産地消に積極的に取り組むところも出てきています。
鳥取県米子市:地域新電力
出典:環境省グッドライフアワード
鳥取県米子市では、官民共同出資による地域新電力会社を設立しました。地域新電力会社とは、地域の再エネ電力を優先調達し、地域の電力消費者に優先供給することで、エネルギーの地産地消と、地域内経済循環を実現することを目的にしている特別目的会社です。
地域の再エネを地域新電力会社が買い支えることで、再エネ事業者の誘致がしやすくなるといわれています。また、これまで大手電力会社へ流失していた電気料金を地域新電力が集めて、事業活動で生み出した利益を地域課題の解決に活用しています。
域内で調達している再エネ発電所は太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱など幅広く、公開されているだけでも30カ所にのぼります。供給先は1万カ所以上です。地域内に雇用も生み出しており、電力マネジメントの専門スキルをもった人材の育成にも貢献しています。
まとめ
今回はさまざまな地域課題と、それを特徴的な方法で解決していった取り組みを紹介しました。これらの自治体の事例で共通しているのは、限られた制約の中で、創意工夫をしていることです。そして自治体が、民間企業や市民と一緒になって地域創生を実現していることでしょう。
現在自治体が抱えている地域課題の大半は、民間企業などさまざまなプレイヤーと連携することが必要なものばかりです。民間企業等の力を借りることで、地域ならではの方法で創造性に満ちた施策を展開できるようになるはずです。
サイネックスは地域と伴走する形で、さまざまな自治体の支援をしてきました。積み上げてきた経験を強みに、地域の状況に応じた地域課題解決を提案しています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問合せください。